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スタートアップにほどバリューが必要な理由【社員数1桁のバリュー策定・前編】

「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)をどのタイミングで定めるか」には、様々な議論がある。なかでもバリューは、メンバーが少ない段階では優先度が上がらず、設定が後に回されるケースも多い。しかしリースは、社員数7名というかなり早い段階でバリューを設定した。そこには明確な理由があったという。

アーリーフェーズからCHROを擁するなど人材・組織に重きをおくリースは、なぜこのタイミングでバリューを設けたのか?そもそもバリューの意義や必要性とは?
前職ではワークショップを通じた組織開発に取り組み、数々の企業のMVV策定に伴走してきた経験も持つCHROに、話を聞いてみた。

【プロフィール】
野島 繁昭(のじま しげあき)
リース株式会社 執行役員 CHRO

早稲田大学理工学部卒。新卒でスローガンに入社し、京都支社及び学生コミュニティの立ち上げなどを通して約10年間に渡り事業成長に貢献。 退職後、フリーランスとして活動。ワークショップを通じた組織開発を行うミミクリデザイン(現・MIMIGURI)での仕事を経て、認知科学をベースとしたコーチ業を開始。2021年4月、リースの執行役員 CHROに就任。引き続き、経営者やエース人材向けのコーチングも個人で行っている。

スタートアップに必要なのは、ルールではなく共通の価値基準

――野島さんは今回のバリュー策定にあたり、他社でCHROを務めるお知り合いの方々からバリューについて様々な意見や情報を集めたと聞きました。そのうえで野島さんが考える、バリューの定義を教えていただけますか?

野島:バリューは、ミッションを達成するプロセスで意思決定の基準になるものだと考えています。

ワンピースで例えると、ルフィ率いる麦わらの一味のミッションは、グランドラインを制覇してひとつなぎの財宝を手に入れること。一方のバリューは、そのプロセスで意思決定を迫られた際に何を重視するか?ですから、麦わらの一味の場合は例えば「最短経路よりワクワク経路」、「仲間のためなら強いやつにも立ち向かえ」、といったことが挙げられると思います。面白そうな島があれば寄り道するし、自分よりも圧倒的に懸賞金が高い――すなわち強い敵にも迷わず挑んでいく。

つまり、船が目的地に辿り着く過程で大切にする共通の価値観が、バリューなんです。

――確かにグランドライン制覇を目指す海賊はたくさんいますが、選ぶ航路は海賊団ごとに様々で、その選択にチームの「らしさ」が出ますよね。そうした共通の価値観が定まっていることで、チームワークを高めることができそうです。

野島:一方で、共通する価値観が定まっていればなんでもいいわけではなく、大前提としてミッションの達成に繋がるようなものである必要があります。言い換えればバリューとは、ミッションの達成に向けてストレッチし続けるための、成果の妥協点を高めるための合言葉だと言うこともできると思いますね。

――また、野島さんは他社のCHROの方々と議論するなかで「ベンチャーやスタートアップにほどバリューが必要だ」という結論に至り、今回リースでのバリュー策定に踏み切ったと聞いています。なぜそうした結論に至ったのか、教えてください。

野島:ベンチャーやスタートアップのような新しい価値を試行錯誤しながら生み出すビジネスにおいては、ルールでの規制よりもバリューで判断基準を揃えるやり方のほうが合っているからです。

創業期など、メンバーが少ないうちはお互いの考えがなんとなくわかっているので、意思決定にズレは生じません。しかしメンバーが増えて個々の価値観にばらつきが出てきたり、コミュニケーションの密度が下がったりすると、意思決定にズレが生じ、組織全体の生産性が落ちてしまいます。そこで、意思決定のズレをなくす「なにか」が必要になるんですね。

その際、ルールで縛る手や、徹底的に作業を分解して仕組み化する手もありますが、どちらもルーチンワークには向いていてもベンチャーやスタートアップのような新しい価値を生み出す業態には向かないんです。なぜなら、最終ゴールは変わらずとも、登る道や登り方は日々変わるから。

そのような変化が激しい状況下では、シチュエーションごとに細かく「AならばB」をルール化するのはとても費用対効果が悪いんですよね。そのため、大枠の方向を示すような、ある程度自由度のある意思決定の基準をバリューとして設定する方がいいんです。

阿吽の呼吸が効かなくなったら、バリューの設け時

――バリューを設けることで、スタートアップやベンチャーのような変化の激しい環境でもチームがブレずに、そして有機的に動けるようになるんですね。
ただ、ミッション・ビジョンは創業時から設ける会社も多いですが、バリューの設定のタイミングは会社によってまちまちだと思います。バリューを設定すべきタイミングについてはどうお考えですか?

野島:創業メンバー、またはそれに準ずるメンバーだけの段階では、バリューは必ずしも必要ではありません。わざわざ言語化せずとも、価値判断の基準が揃っているからです。

バリューが必要になるのは、そうした阿吽の呼吸が効かなくなるタイミング、あるいはメンバーが増えて階層が生まれるタイミングだと思います。メンバーが二桁を超え、15~30人程度になる頃には必ず必要になるでしょうね。マネージャーAとマネージャーBが言ってたことが違うぞ、ということが起きてしまうのが、それくらいの人数だと思います。

リースが社員数7名でバリューを作る理由

――でも、リースはまだ社員数が一桁台ですよね。なぜこのタイミングでバリューを作ったのでしょう?

野島:リースは正社員だけで構成する旧来型の組織とは異なり、プロジェクトやチームごとに社外のタレントを巻き込むスタイルを取っており、業務委託の社外メンバーを含めると実は既に30名程度になるんです。

僕たちは「そうした社外メンバーも含めてチームである」という思想を持っているため、業務委託の方々とも共通の価値基準(バリュー)を持って働きたいと思っています。

一方で、業務委託の方々が密にコミュニケーションを取るのは携わるプロジェクトの担当社員にどうしても偏ってしまうため、社員の価値基準にバラつきがあると、その先にいる業務委託の方々含めたチームの価値基準もプロジェクトによってバラバラになってしまうという問題が生じてしまいます。

こうした問題を避けるためには、まずはプロジェクトの中心となる社員メンバーが価値基準を揃え、それらを体現することで各チームに波及させていくことが必要なんですよね。

また、会社の成長フェーズの観点でも、早晩迎えるであろうシリーズAの資金調達後に組織が急拡大することを見据え、今のうちにカルチャーの礎を築いておきたいという狙いもあって、このタイミングでバリューを作ろうと考えました。

バリュー浸透の鍵は策定プロセスにあり

――ここまでお話を伺ってみて、バリューが上手く運用されている組織はすなわち強い組織だと言えそうだ、と感じました。

野島:おっしゃる通り、バリューはいかに上手く運用されているかが大事なんですよね。作ることがゴールではなく、組織に浸透し、メンバーが日常的に使うようになることがゴールなんです。

――そこがバリューの難しいところですよね。実際、バリューにまつわる失敗談のほとんどが運用の段階で起きている印象があります。バリューがきちんと浸透するには、どんなことが大切なのでしょうか。

野島:バリュー策定のプロセス自体にメンバーを巻き込むことでしょうか。できてから施策を打つことも大切ですが、それ以上に策定のプロセス自体に社員を巻き込むことが肝心だと思います。

Aでもない、Bでもない…じゃあB'だとどうだろう?と、皆で試行錯誤して一緒にたどり着いた結論である、という思考プロセスそのものを共有する体験が納得感に繋がり、それによってバリューが自分ごと化されると思うんです。

一方で、完全にボトムアップで議論を進めてしまうと視座が低くなるリスクもあるので注意が必要です。バリューは「成果の妥協点を高める合言葉」ですから、完全に過去や現状の延長線上にあるものではなく、少しストレッチの効いたものであるほうがいい。そのためには、トップからのインプットも効果的に行う必要があります。

――前職では組織開発の仕事を行い、クライアントのMVV策定に伴走した経験も豊富に持つ野島さん。その経験も踏まえつつ、リースのバリュー策定プロセスは、ボトムアップとトップダウンをうまく織り交ぜるよう設計していったそう。記事の後編では、そんな策定プロセスの全容を具体的に紐解いていきます。

【ライタープロフィール】
高野 優海 note

早稲田大学文化構想学部出身。卒業後、人材系ベンチャーにて学生の就職支援や企業の採用支援に従事したのち、栃木県の非電化工房に弟子入り。有機農業やセルフビルドを中心に、様々な自給自足の術を学ぶ。現在はライター業を中心にフリーランスとして活動。

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