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「フリーランス賃貸入居審査実態調査2024」分析レポート:フリーランスの7割が煩う"借りにくさ“の解消に向けた提言

リースの「家賃保証ラボ」(以下、家賃保証ラボ)はこの度、フリーランスワーカー(以下、フリーランス)を対象に賃貸住宅の入居審査に関する実態調査を実施しました。家賃保証ラボでは、この調査結果を詳細に分析し、フリーランスが賃貸住宅市場で直面する課題を明らかにしました。さらに、この分析を踏まえ、フリーランスと賃貸市場のミスマッチを解消するための具体的な提言をまとめています。本記事では、調査結果の概要とともに、今後の賃貸市場に求められる変革について考察します。

【調査概要】
- 調査対象:フリーランス
- 調査機関:自社調査
- 調査方法:クラウドソーシング「ランサーズ」に登録するフリーランスを対象にしたインターネット調査
- 調査期間:2024年8月13日〜2024年8月22日
- 有効回答数: 500人(男性 312人/女性 188人)
- 回答者の年代:20歳未満2人、20代65人、30代173人、40代157人、50代84人、60歳以上19人



フリーランスの73.4%が「借りにくさ」を実感:年齢・経験・収入別にみる傾向 

設問「住宅を借りる際に、入居審査が通らない(通りにくい)等といった"借りにくさ"を感じたことはありますか?」

「住宅を借りる際に、入居審査が通らない(通りにくい)等といった"借りにくさ"を感じたことはありますか?」という質問に対して、「ある」と回答したフリーランスは全体の73.4%に達しました。この「借りにくさ」の経験は全年齢層で高い割合を示していますが、特に30代と40代で顕著です。

通常、これらの年齢層はキャリアの安定期に入ると考えられますが、フリーランスという働き方が、収入の不安定さや予測困難な収益変動を想起させ、入居審査をする家賃保証会社が審査基準を厳格化している可能性が高いと推測されます。

年収別に「借りにくさ」を分析すると、フリーランス特有の傾向が浮かび上がります。まず、年収200万円未満の層で75.2%、200万~400万円未満の層で72.2%と高い割合の人が「借りにくさ」を感じていることが分かります。これは、低収入による信用力の低さが主因であり、フリーランスに限らず一般的な現象と言えるでしょう。

特筆すべきは、年収400万~600万円未満の層で「借りにくさ」を感じる割合が77.4%と最も高くなっている点です。この収入帯は一般的な給与所得者の平均世帯年収と一致し、通常であれば標準的な審査基準で問題ないとされるレンジです。

にもかかわらず、この層でフリーランスが特に「借りにくさ」を感じているという事実は、フリーランスという働き方自体が審査において不利に働いている可能性を強く示唆しています。

一方、年収が600万円を超えると「借りにくさ」を感じる割合が急激に低下し、600万~800万円未満の層では58.6%、800万~1,000万円未満および1,000万円以上の層ではともに50%となっています。これは、高収入によって信用評価が向上し、フリーランスとしての収入の安定性が認められやすくなっていることを示唆しています。

しかしながら、年収800万円以上の高収入層でも依然として50%が「借りにくさ」を感じているという事実は注目に値します。これは、申し込んだ物件と信用のバランスが不利に働いている可能性や、フリーランスという働き方に対する根強い偏見が存在する可能性を示唆しています。


フリーランスが感じる「借りにくさ」の正体:キャリアステージで変わる課題とは

設問「”借りにくさ”が「ある」と回答した方に質問です。どのような点で課題を感じましたか?」

フリーランスが感じる「借りにくさ」の要因を分析すると、明確な傾向と課題が浮かび上がりました。

最も顕著なのは、全体の58.8%を占める「不安定な職業とみなされ、審査が通りにくい」という回答です。これは、フリーランスという働き方自体が、賃貸市場において依然としてリスクの高い職業カテゴリーとして認識されていることを示唆しています。

次いで「年収を理由に、審査が通りにくい」という回答が24.3%を占めており、フリーランスの収入の変動性や不安定さが、審査過程で適切に評価されていない現状が浮き彫りになっています。

年齢層やフリーランス歴といったキャリアの観点から分析すると、興味深い傾向が見られます。若年層(20代+30代)やフリーランス歴の浅い層(1年未満+1〜3年未満)は年収が低いことによる審査の難しさがより顕著に表れています。これは、キャリアの初期段階では収入の安定性や将来性の予測が難しいことを反映していると考えられます。

一方、年齢層が上がる(40代+50代)、またはフリーランス歴が長くなる(8年以上)につれて、「年収を理由に、審査が通りにくい」という回答の割合は減少します。しかし、それに代わって「連帯保証人が見つからない・見つけづらい」という新たな課題が浮上しています。これは、キャリアが進むにつれて個人の収入や実績は評価されやすくなる一方で、フリーランスという働き方ゆえに、信用を担保する人や組織との関係性が希薄になりやすいことを示唆しています。

また、フリーランス歴が長くなるにつれて「事務所利用可の物件が少ない」という回答の割合が増加しています。これは、キャリアの進展とともに、自宅兼事務所のような柔軟な働き方を求めるフリーランスが増加する一方で、そのニーズに対応した物件供給が追いついていない可能性を示しています。


フリーランスの声:賃貸住宅市場改善へのアイデアと要望

設問「フリーランスがお部屋を借りやすくなるために、このようなサービスや 機能があったら良いなといったご要望やアイデアがありましたら教えてください。」

フリーランスの住宅賃貸に関する要望を分析すると、現在の賃貸市場が抱える構造的な課題が浮き彫りになります。 全体の傾向を見ると、回答は主に3つの選択肢に集中しています。「フリーランス専用の不動産賃貸サービス」(33.2%)、「フリーランスの信用度を担保する第三者機関」(29.6%)、「職業や年収以外のフラットな審査基準」(26.2%)です。

この結果は、現在の賃貸市場がフリーランスの特性に適応しきれていないことを如実に示しています。 フリーランス専用サービスへの高い需要は、既存の賃貸システムがフリーランスの就労形態に対応しきれていない現状を反映しています。同時に、信用度を担保する第三者機関への要望は、フリーランスの収入の安定性や信頼性を客観的に評価する仕組みの必要性を示唆しています。さらに、フラットな審査基準への要望は、従来の職業や年収中心の審査方法がフリーランスの実態にそぐわないことを表しています。

注目すべきは、これらの傾向が年齢、キャリア、年収帯を問わず、ほぼ一貫して見られる点です。このことは、フリーランスが直面する賃貸の課題が、特定の層に限定されたものではなく、フリーランス全体に共通する構造的な問題であることを示唆しています。


自由記述に見る、フリーランスのニーズ

選択肢にない要望やアイデアを持つ回答者に自由記述を求めたところ、以下の主なテーマとアイデア例が浮かび上がりました。これらの回答は、既存の選択肢で示された課題に対する、より切実で具体的なニーズを反映しており、フリーランスが直面する住宅賃貸の問題の本質をより深く理解する手がかりとなっています。

1.多角的な信用評価システムの構築
フリーランスの信用を適切に評価するためには、従来の収入基準だけでなく、多様な要素を考慮した評価システムが求められています。

  • 貯蓄額や資産状況を考慮した審査基準の導入(50代男性・フリーランス歴8年以上)

  • クラウドソーシングプラットフォームでの評価や実績を信用情報として活用(50代女性・フリーランス歴8年以上)

  • 確定申告書や過去の納税実績を重視した審査方法の確立(30代女性・フリーランス歴5~8年未満)

  • 長期的な職歴や社会貢献度を評価に組み込む仕組み(50代男性・フリーランス歴1~3年未満)

2.フリーランス特化型の信用保証サービスの開発
フリーランスの特性を理解し、それに適した保証サービスの需要が高まっています。

  • フリーランス専門の家賃保証サービスの設立(50代男性・フリーランス歴8年以上)

  • フリーランス同士が連帯保証し合うシステムの構築(50代男性・フリーランス歴8年以上)

  • 行政や社会的機関が関与する斡旋・保証制度の創設(20代男性・フリーランス歴1年未満)

  • 事業計画書を基に将来性を評価し、保証人の代わりとする仕組み(50代女性・フリーランス歴8年以上)

3.柔軟な支払いオプションの提供
フリーランスの収入の変動性を考慮した、より柔軟な支払い方法が求められています。

  • 多めの敷金や保証金を支払うことで審査基準を緩和する選択肢の提供(40代男性・フリーランス歴1年未満)

  • 一定期間の家賃前払いオプションの導入(30代男性・フリーランス歴1~3年未満)

  • 家賃滞納時の即時退去を条件に、入居のハードルを下げる契約形態の設計(40代女性・フリーランス歴5~8年未満)

4.総合的なサポートシステムの確立
フリーランスの多様な背景や状況を考慮した、きめ細かいサポートが必要とされています。

  • シングルマザーや介護者など、複合的な条件を持つフリーランスへの相談サービス(50代女性・フリーランス歴8年以上)

  • フリーランスの互助組合的な組織の設立(50代男性・フリーランス歴1~3年未満)

  • 退去予定者が次の入居者を紹介するマッチングシステムの構築(40代男性・フリーランス歴5~8年未満)

5.物件供給の多様化
フリーランスのニーズに合わせた、柔軟な物件供給が求められています。

  • 事務所利用可能な物件の増加(40代男性・フリーランス歴1年未満)

  • 短期利用や柔軟な契約形態を持つ物件の提供(30代女性・フリーランス歴8年以上)

  • 家具付きの物件や又貸しサービスの拡大(30代男性・フリーランス歴1年未満)

これらのテーマとアイデアは、フリーランスの「借りにくさ」を解消し、より公平で柔軟な賃貸市場を形成するための重要な指針となり得ます。


家賃保証ラボ代表からの提言:  フリーランスと賃貸住宅市場の新たな共生に向けて

多様な働き方が広がる中、フリーランスの賃貸住宅市場における「借りにくさ」は、賃貸住宅市場におけるミスマッチの象徴的な政策課題であると言えます。家賃保証ラボは、従来の家賃保証の仕組みでは対応しきれない需給の齟齬を解消するため、以下の提言を行います。

まず、キャリアステージに応じた新たな信用評価システムの構築が不可欠です。特に中期キャリア層に対しては柔軟な審査基準と代替的信用評価方法の導入が求められています。

同時に、長期キャリア層の実績を適切に評価する仕組みの確立も重要です。これに対しては、フリーランスのプラットフォーム事業者による、キャリアステージに応じた新たな信用評価システムの構築への関与が期待されます。これにより、中長期キャリア層の適切な評価が可能になります。

次に、フリーランス特化型の信用保証サービスの開発も重要な課題です。
- フリーランス専門の家賃保証サービスの設立
- フリーランス同士の相互保証システムの構築
- 行政や社会的機関が関与する斡旋・保証制度の創設
などが考えられます。具体的には、家賃保証サービス会社によるフリーランス特化型の信用保証サービスの開発が期待されます。

また、多様なニーズに対応する物件供給の促進が求められます。事務所利用可能な物件の増加、短期利用や柔軟な契約形態を持つ物件の提供、さらには家具付き物件や又貸しサービスの拡大など、フリーランスの多様な働き方に適した住環境の整備に向けて、不動産会社や行政にこれらのニーズに対応する物件供給の促進を提案します。

これらの提言を実現するためには、不動産業界、金融機関、行政機関、フリーランスコミュニティの協力のもと、新たな賃貸システムを構築し、フリーランスにとどまらず多様な社会の働き手にとってより住みやすい社会の実現が必要です。

家賃保証ラボは、これらのステークホルダーと連携しながら、サービス利用者のニーズに関する最新動向と洞察を提供し、フリーランスにとってより住みやすい社会の実現と業界の発展に寄与してまいります。

家賃保証ラボ代表 小林司