家賃保証業界の基礎知識
1.家賃保証業界について
市場規模と成長率
家賃保証サービスは、元々、賃貸契約における連帯保証人の代替として発展してきました。専門の保証会社が入居者の家賃支払い能力を保証することで、賃貸契約がより円滑に行えるようになります。
入居者にとっては連帯保証人を確保できなくても入居が可能になり、不動産オーナーにとっては、滞納発生時の賃料が保証され、従来は入居が困難だった層への賃貸が可能になります。
この家賃保証サービスは1995年頃から登場し、2000年代に新規参入が相次ぎました。現在の業界の市場規模は約2,000億円、保証利用率は70%と推定されています。特にここ10数年で大きく浸透しましたが、その背景には高齢社会や単身者世帯の増加など社会構造の変化に伴う人間関係の希薄化により、個人による連帯保証が形骸化したことが挙げられます。また、後述する法規制の影響も、この浸透を後押ししています。
主要企業
家賃保証サービスを提供している会社は250社以上存在します。大手信販系会社の多くがこのサービスを提供しており、上場している専業会社も6社ほどあります。
入居者が家賃を滞納や支払えなくなったとき、家賃保証会社は代わりに不動産オーナーに支払います。この仕組みを代位弁済と呼びます。家賃保証会社の経営にとって、代位弁済発生率と代位弁済回収率は重要な指標となります。入居審査において、リスクの高い属性の顧客に対応することで売上を伸ばすことはできますが、滞納などのリスクが増加し代位弁済に至るケースが増えることになります。このリスクをコントロールし、経営指標を良好な水準に維持していくことが、家賃保証会社にとって重要な経営課題といえます。
2.家賃保証業界のトレンド
民法改正の影響
2020年4月に施行された民法改正により、個人が保証人になる場合、支払いの責任を負う金額の上限(極度額)を定めなければ、保証契約が無効になるというルールが導入されました。そのため連帯保証人の仕組みも、書面にて極度額を明示し合意する必要が生じています。このため、個人による連帯保証人の引き受けが忌避されるようになり、家賃保証会社の利用への移行が進み、家賃保証会社の利用を必須とする契約形態が増加しています。
国による登録制度
家賃保証サービスが不動産の賃貸契約に欠かせない存在となる一方で、滞納による代位弁済ができない場合、家賃保証会社の損失が膨らむため、2017年頃から悪質な取り立てや追い出し行為が社会問題化してきました。
家賃保証会社の取り立てには、法律上の規制が存在しません。そこで国土交通省は業務の適正化を図るため、2017年に家賃債務保証業者の登録制度を創設しました。これは、一定の要件を満たす家賃債務保証業者を国に登録し、その情報を公表する制度です。保証会社には「虚偽告知・誇大広告の禁止」「契約締結時の書面交付」といったルールの順守を求め、必要に応じて指導を行います。2024年3月29日現在、101者が登録しています。
また家賃保証会社も自主的に業界団体を組織し、業務の適正化、ルールづくり、入居者保護といった業界全体の質の向上に取り組んでおり、その一つとして一般社団法人 全国保証機構(CGO)があります。
要配慮者への支援
高齢社会の進展に伴い、65歳以上の一人暮らしの単身高齢者が増加しています。単身高齢者は孤独死を懸念して、不動産オーナーが貸し渋るケースが多く見られます。そのほか低所得者や障害者など、支払い能力の面で住宅が借りづらい人たちを、国は「住宅確保要配慮者」と位置付けて支援する仕組みの整備に取り組んでいます。
この仕組みでは、不動産オーナーが安心して要配慮者に住宅を貸せるように、家賃保証サービスを引き受ける家賃保証会社を国が認定する制度が創設されます。認定条件としては、要配慮者の保証を引き受けることや、緊急連絡先を親族など「個人」に限定しないことが挙げられ、貸主・借主双方が安心して契約できるようにします。家賃保証会社はこの制度における保証を引き受ける分、保険の補填率を高くしてもらえるなど、リスクをヘッジするインセンティブが与えられます。具体的には今国会で住宅セーフティネット法などの改正により実現する予定です。
今後一層、家賃保証サービスは円滑な居住環境のため、社会にとって必要なインフラになっていくと考えられます。
3.テナント家賃保証業界について
居住用との違い
テナント家賃保証は、法人向けのオフィス、店舗や工場といった事業用不動産の賃料保証を指し、居住用とは異なる特徴があります。
1.賃料等が高めに設定 事業用不動産は、居住用と比べて常に人の出入りがあることなどから、痛みが早くなるため、賃料をはじめ敷金や礼金、仲介手数料などの初期費用も高く設定されます。また、居住用にはかからない消費税がかかることも大きな違いです。
2.入居時の審査の内容が異なる 居住用では個人の収入という家賃の支払い能力を重視した審査が行われる一方、事業用では事業の内容や規模、創業年数、売上などが審査対象となるため、提出が必要な書類も多くなります。そのため、事業内容や創業間もないという理由で借りられないケースも出てきます。
3.消費者保護水準が異なる 居住用も事業用も基本的には借地借家法によって借主は保護されますが、生活のために借りる居住用のほうが消費者契約法などによって守られる水準が高くなっています。事業用では解約予告を早めにする必要があり、3ヶ月から6ヶ月以上前までに通知する必要があります。
業界動向と成長率
このような居住用不動産と事業用不動産の法的な枠組みの違いから、テナント家賃保証サービスはよりリスクが高く、複数のタイプの契約に対応する保証が必要となってきます。
そのため、テナント家賃保証業界の市場規模は約200億円、保証利用率が約15%と居住用に比べて相対的に小さく、参入企業も約10社程度にとどまっています。しかし、テナント家賃保証サービスにより、入居側は敷金などの初期費用を抑えることができ、オーナー側は保証に加え入居率を上げることができるため、事業用においても今後の成長が強く期待できます。
技術進化とイノベーション
テナント家賃保証は、居住用より高いリスクに対応するため入居審査もより詳しく行う必要がありますが、金融機関のように審査に対してコストをかけることができないという大きな課題があります。
この課題に対して、デジタルやAIによる解決が新たなビジネステーマとして注目されています。リースでは、「家賃保証クラウド」にて法人の基本情報や信用格付け情報を即時で提供する法人入居審査担当者向けサービスを提供しています。他にも、AI技術を活用した与信審査の試験運用などが行われており、今後とも目が離せないテーマとなっています。